ピロリ菌ってそんなに悪いやつだったの?除菌した方がいい理由とは?
ピロリ菌は、胃の中に棲みつく細菌で、様々な胃の疾患の原因になることが分かっています。
ただ、厄介なことに、なかなか症状が出ず、「なんとなく胃の痛みが続いて、病院に行ってみたら、ピロリ菌がいると言われた。」「会社の健診で引っかかって検査したらピロリだった」という人も多いのが現状です。
症状が出ない分、放置されてしまいやすいですが、早めに除菌を行わないと、胃癌など重大な疾患に繋がるケースもあります。
今回は身近だけど、なかなか詳しく知る機会はない、ピロリ菌に関する知識をお伝えさせていただきます。
ピロリ菌とは
どんな菌?
ピロリ菌は正式な名前を「ヘリコバクター•ピロリ」と言います。 胃には胃酸があるため、通常の細菌は生息できません。 しかし、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を使って、自身の周りの胃酸を中和することで、胃の中での生存を可能にしています。 |
感染経路は?
ピロリ菌はだいたい5歳までの幼児期に感染すると言われています。
水や食べ物を介して、口から入ることで感染するという説が濃厚で、上下水道の環境が整っていなかった一昔前は、8割くらいの人が感染していました。
しかし、現代は衛生環境が整っているため、感染経路のほとんどが、感染している大人から小さい子供へのキスや口移しであると言われています。
ピロリ菌に感染するとどうなる?
胃における影響
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜が次第に荒れ始め、炎症が起こってきます。
その状態が長く続くと、慢性胃炎と呼ばれる疾患に進行し、そこから胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんに発展していく可能性があります。
もちろんピロリ菌に感染した方が全て胃がんになることはないですが「胃がんになった人のおよそ98%の人にピロリ菌感染がみられた」とも報告されています。
また、機能性ディスペプシアや胃食道逆流症などもピロリ菌感染と関連性があると言われています。
全身への影響
ピロリ菌が関与するのは、胃の疾患だけではないことも分かってきています。
H.pylori感染の診断と治療のガイドライン
(http://www.jshr.jp/pdf/journal/guideline2016.pdf)
には、以下の疾患でピロリ菌の感染と関連がある、または関連している可能性が示唆されると記載されています。
・鉄欠乏性貧血
・糖尿病
・アルツハイマー型認知症
・パーキンソン症候群
・慢性蕁麻疹
このような聞き馴染みのある疾患以外にも、特発性血小板減少性紫斑病などもピロリ菌の感染が関係していると言われています。
このように、ピロリ菌に感染している状態を放置していると、全身のさまざまな臓器に悪影響を与える可能性があるのです。
ピロリ菌の除菌はどうやって行う?
病院に行かないとダメ?
さまざまな悪影響を及ぼすピロリ菌ですが、ではいったいどうすれば胃の中から消し去る(除菌する)ことができるのでしょうか。 残念ながら、ピロリ菌は生活改善や市販薬の服用など、自力で除菌することはできません。 必ず医療機関を受診し、ピロリ菌がいるかどうかの検査を行ってから、医師の指導のもと除菌を行うことになります。 |
除菌薬ってどんなもの?
しかし、ピロリ菌の除菌は、手術や入院が必要となるような大がかりなものではありません。
日常生活を送りながら、胃酸の分泌を抑える薬を1種類と抗生物質を2種類、合わせて3種類の薬を、1週間、朝晩の1日2回服用するだけです。 ただ、ピロリ菌の除菌薬は1週間の間は確実に用法・用量を守って飲み切らなければいけませんが、3種類の薬の服用する錠数がそれぞれ異なることもあり、まれに飲み間違いや飲み忘れを起こす方もいます。 そういった服用ミスによる除菌失敗を防ぐため、セット製剤も用意されています。 1枚のシートに、朝と晩の薬が分かりやすいように1列ずつセットされており、1枚で1日分の薬が服用できるようになっています。 これを毎日1枚ずつ、計7日間服用すれば完了となりますが、途中で「今日の分飲んだかどうか分からなくなった」とならないよう、各シートには日付を記入する箇所も用意されています。 |
除菌はどれくらい成功するの?
以前は除菌の成功率は約70%ほどでしたが、2015年に新しく発売された胃薬を用いた除菌であれば、除菌の成功率は約90%までに上がっています。
また、もし除菌できなかった場合でも、違う薬の組み合わせにより、2回目の除菌を行うことができるので安心してください。
2回目で除菌できた人を合わせると、成功率は約95%まで上がるとも言われています。
除菌薬で副作用は出る?
ただ、除菌のための薬によって副作用が起きることもあります。
特に下痢や軟便の副作用が起きやすく、約1割の人に発生すると言われています。
他にも味覚の異常や、蕁麻疹、除菌が終わった後に胃酸の逆流を感じる、といった副作用が挙げられます。
これらの副作用は、ほとんどが一時的なものですので、過度に心配する必要はないでしょう。
ピロリ菌感染を見逃さないためには
①長期にわたる市販薬でのセルフケアは行わない
ピロリ菌に感染し、胃粘膜が荒らされると、胃痛や胸やけ、胃もたれといった自覚症状が現れてくることがあります。
しかし、市販薬の服用によってそれらの症状を抑えてしまうと、せっかく胃が出してくれたサインを見逃してしまうことになります。
胃に効果を示す市販薬のほとんどは、説明書に「長期使用しないこと」と記載があります。
薬によってもその日数は異なりますが、目安は2週間です。
食べ過ぎや飲み過ぎた日に限らず、慢性的に胃の症状が続いている場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
②会社の健康診断や自発的な健診を利用する
胃痛などの症状が出ていれば、まだ感染に気付きやすいですが、ピロリ菌感染は残念ながら、ほとんどの場合、無症状です。
また、症状が出た時には、疾患がすでに進行してしまっている可能性もあります。
よって、早期発見のためには、会社の健康診断や人間ドックを積極的に活用することをお勧めします。
胃カメラと聞くと、検査時の苦痛をイメージして、敬遠する人もいるかと思います。
しかし、ピロリ菌の検査には、必ずしも胃カメラが必要ではなく、例えば尿素呼気検査法という方法なら、呼気を2回採取するだけで、感染しているかどうかが判定できます。
その他にも、血液検査によりピロリ菌の有無を確認することもできますので、健診の際、血糖値などの通常の検査項目に、オプションとして追加で調べてもらえるところもあるようです。
まとめ
ピロリ菌は身近なところに潜んでいる感染症であり、多くの人が無症状のまま感染しています。
ただ、感染した状態を放置していると、胃がんを含めた胃の疾患のリスクを高める以外にも、全身の疾患へと繋がる可能性があります。
ピロリ菌は、薬の服用により比較的簡単に除菌することができるため、今現在胃の不調を感じている人はもちろん、そうでない人も、自発的に検査を受けてピロリ菌の感染を調べることをお勧めします。
この記事がきっかけでピロリ菌についての理解が深まり、検査や除菌へと繋がれば幸いです。