なかなか治らない胃の不調は病気かも?10人に1人がかかる機能性ディスペプシアとは?
「機能性ディスペプシア」という病気をご存知でしょうか。
なかなか聞き慣れないかもしれませんが、約10人に1人がかかっている、とてもありふれた病気です。
「ここ数年、なんとなく胃の不調をずっと感じている。
でも、会社の健診でやった胃の検査でも異常はなかったし、もう歳ってことなんだろう。」
そうして我慢している胃の不調は、実は機能性ディスペプシアであり、治療によって改善される可能性があります。
今回は、認知度は低いけれど身近な胃の病気「機能性ディスペプシア」についてお話しさせていただきます。
機能性ディスペプシアとは?
ディスペプシアとは医学的に「消化不良」という意味を指し、「胃や消化管に明らかな異常が見られないにも関わらず、胃痛や胃もたれ、ムカつきなどの症状が継続している状態」を機能性ディスペプシアと言います。
あまり馴染みのない方が多いのも仕方のないことで、実は機能性ディスペプシアという概念は最近になって確立され、以前はストレス性胃炎や神経性胃炎などと診断されていました。
ただ、日本人の約10人に1人、また、胃に関する何かしらの不調で病院を受診した人のうち約半数は機能性ディスペプシアであったとも言われています。
機能性ディスペプシアは知られていないだけで、非常に身近な病気であると言えるでしょう。
症状は?
機能性ディスペプシアによって現れる症状は幅広くありますが、主に次のようなものが挙げられます。
● 食後の胃もたれ
● 食事をしてすぐにお腹が膨れる
● 胃痛
● 胃のムカつき
● 食欲不振
● 吐き気
特に、「食後の胃もたれ」「食事をしてすぐの膨満感」「胃痛」「胃のムカつき」の4つの症状は機能性ディスペプシアの診断にも用いられる自覚症状であり、定義上は「4つの症状のうち1つが6ヶ月以上前に発症し、3ヶ月以上続いている状態を機能性ディスペプシアである」としています。
さまざまな種類の胃の不調を引き起こす機能性ディスペプシアですが、よく似た疾患に、非びらん性胃食道逆流症、過敏性腸症候群というものがあります。
これらの疾患も、内視鏡などの検査で特に異常がないというのが共通しています。
診断の見分けが難しいところではありますが、目安として、症状が出る場所の違いがあります。
機能性ディスペプシアは胃(みぞおちのあたり)、非びらん性胃食道逆流症は食道(胸のあたり)、過敏性腸症候群は大腸(下腹部のあたり)にそれぞれ不調が現れてくることが多いと言えるでしょう。
原因は?
「胃や十二指腸の運動機能が低下している」ことや、「胃酸や脂質に対して知覚過敏になっている」、また「胃酸の分泌異常」などが機能性ディスペプシアの症状を起こしていると言われており、以下のような要因が関係している可能性が示唆されています。
● 生活習慣(喫煙、アルコール、睡眠時間の不足)
● 食生活(早食い、刺激物や脂質の多い食事の摂りすぎなど)
● ストレス、幼少期のトラウマ
● ピロリ菌の感染
● サルモネラ菌やカンピロバクターなどの腸管感染を起こした経験
● 遺伝
ただ、あくまでも「機能性ディスペプシアの患者さんにこういった傾向が強かった」という研究段階であり、はっきりした機能性ディスペプシアの原因はまだ特定されていません。
どんな検査が必要?
機能性ディスペプシアは胃粘膜に明らかな異常が見られないのに、症状が出ている状態です。
よって、今までは明らかな異常が「ない」ことを確かめるために、内視鏡(胃カメラ)を受ける必要がありました。
しかし、内視鏡検査と聞くと、敬遠して受診の足が遠のいてしまいますよね。
そこで、機能性ディスペプシアに関するガイドラインが2021年に改定され、現在は内視鏡の検査なしでも、問診や血液検査などで診断がつくようになりました。
治療はどうする?
活習慣改善
生喫煙や乱れた食生活など、生活習慣の改善を行うことで症状の緩和が見込まれます。
特に、禁煙や、脂質の多い食事の摂り過ぎや早食い・食べ過ぎを避けること、睡眠時間を十分に確保することなどが推奨されています。
また、ストレスは自律神経の乱れを生みます。
胃は自律神経の影響を受けやすい臓器であることが分かっているため、可能ならストレスとなっている要因を排除できるのが望ましいでしょう。
治療薬
生活習慣の改善を行うことで、症状が緩和されるのが一番ではありますが、症状に合わせて以下の治療薬が用いられます。
一次治療
● 胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプインヒビター、H2ブロッカー)
● 胃腸機能改善薬(アコファイド)
● 漢方薬(六君子湯)
二次治療
● 胃腸機能改善薬(アコファイド以外)
● 漢方薬(六君子湯以外)
● 抗不安薬・抗うつ薬
アコファイドは機能性ディスペプシアに対して、唯一保険適応をもつ医療用医薬品です。
今までは他の胃腸機能改善薬と同じ位置付けでしたが、治療実績が良いことから、2021年のガイドライン改定で、特に効果が見込まれる薬とされました。
一次治療での薬で期待される効果が見られない場合は、二次治療の薬の使用が推奨されています。
ストレスやトラウマなどが要因と思われる場合は、自律神経を整える漢方や抗うつ薬などが有効であることもあるでしょう。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌の感染が機能性ディスペプシアに関連しているとう報告は数多く、ピロリ菌の除菌によって症状が改善された場合は、機能性ディスペプシアではなく「ヘリコバクター関連ディスペプシア」と呼ぶことも提唱されているほどです。
よって、ピロリ菌への感染の有無を検査した結果、陽性であった場合はまず除菌薬の服用が推奨されます。
ピロリ菌について、詳しくはこちらの記事も参照ください。
まとめ
機能性ディスペプシアは非常に身近な病気であるにも関わらず、これまでその概念が確立されていなかったため、あまり周知されていません。
そのため、機能性ディスペプシアにかかりながらも、そのことを自覚することなく、症状を我慢して生活している人も多いのが現状です。
機能性ディスペプシアは、はっきりとした原因などは解明されていないものの、症状の改善が期待される生活習慣改善の指導や治療薬がわかってきています。
継続した胃の不調に悩まされている方が、自己判断により市販薬で症状を抑えているだけでは、辛い症状から脱却するのはなかなか難しいでしょう。
機能性ディスペプシアである可能性は十分にあり、もしかすると胃潰瘍や胃がんといったさらに違う病気が隠されている可能性もゼロではありません。
気になる症状が続いている方は、一度、消化器内科などの専門の医療機関を受診してみることをお勧めします。
この記事が、辛い胃の不調に悩まされている方にとって、お役に立てることを祈っています。