

夏に眠れない本当の理由|体温・自律神経・睡眠ホルモンを薬剤師が解説!
「暑くて眠れない」「夜中に何度も起きる」——夏になると睡眠の悩みが増えるのは、気温や湿度のせいだけではありません。
実は、眠りを導く深部体温や自律神経の働きが影響しています。
この記事では、薬剤師の視点から夏の不眠の原因を徹底解説し、ぐっすり眠れるための具体的な対策までご紹介します。


第1章|なぜ夏は眠れない?その仕組みを解説
深部体温・自律神経・メラトニンの関係とは?
「夏になると寝つけない」
「朝起きてもぐったりしている」
そんな経験、ありませんか?
暑さや寝苦しさのせいだけではなく、実は体の仕組みによる理由がはっきりとあります。
今回は、睡眠と深い関係がある「深部体温」「自律神経」「メラトニン」の3つに注目して、夏の不眠メカニズムをわかりやすく解説していきます。
ポイント1| “体温が下がらない”と眠れない
人間は眠りに入るとき、深部体温(脳や内臓の温度)がゆるやかに下がる仕組みになっています。
これは、体が休息モードへ切り替わる自然なサインです。
しかし夏はこの体温低下がうまくいかない。
寝る前に汗をかいても、その汗がうまく蒸発しない。
湿度が高いため、熱が体の外に逃げにくく、結果的に深部体温が下がらないまま布団に入ることになります。
この状態では、体も脳も「まだ活動中」と判断してしまい、入眠にブレーキがかかるのです。
ポイント2| 夏の自律神経は乱れやすい
もうひとつの大きな要因は、自律神経のアンバランスです。
自律神経には交感神経(活動モード)と副交感神経(休息モード)があり、これがうまく切り替わることで眠りにつくことができます。
ところが夏は、気温の乱高下、強い紫外線、室内外の寒暖差、大量の発汗といったストレスが自律神経に過度な負荷をかけます。
その結果、交感神経が優位なまま夜を迎えるという人が増えてしまいます。
本来は寝る時間になると、副交感神経が優位になり、体がリラックス状態へと入るのが理想です。
でも、交感神経が働きっぱなしでは、心拍数や体温が下がらず、「眠りにくい」「眠りが浅い」といった症状が起きやすくなります。
ポイント3| メラトニン分泌がズレる夏
「なんとなく寝つきが悪い」
「夜更かしがクセになってしまう」
そんな症状も、メラトニンというホルモンの働きと関係しています。
メラトニンは、脳の松果体という場所から分泌される“睡眠スイッチ”のようなホルモンです。
通常、暗くなるとメラトニンの分泌が始まり、自然な眠気を促します。
しかし夏は、日照時間が長く、夜になっても明るい時間帯が続くため、この分泌タイミングが後ろにズレてしまいます。
さらに、強い日差しによる体内リズムの乱れや、寝る直前までのスマホ・テレビ視聴(ブルーライト)も拍車をかけます。
結果、メラトニンの分泌量が減ったり、分泌のタイミングがズレたりして、眠気を感じにくくなってしまうのです。
夏の夜に眠れないのは、「ただの暑さ」の問題ではありません。
深部体温が下がらず、自律神経は乱れ、メラトニンの分泌にも影響が出る──。
つまり、体も脳もリラックスできないまま夜を迎えてしまっているというのが、夏の不眠の正体です。
次章では、こうした状態をどうやって整えるか、生活習慣の見直しポイントを詳しく解説していきます。


第2章|今日から見直せる!夏の快眠生活習慣
エアコン・お風呂・朝の過ごし方がカギ
夏に眠れない原因が“体の仕組み”にあるなら、対策もそこに合わせるのが自然です。
ポイントは、室温・湿度・入浴・光・水分の5つ。
ここでは、薬に頼らずに快眠をサポートするための、すぐに始められる生活習慣の工夫を紹介します。
やるべきことは意外とシンプルです。
エアコンは「温度」と「風向き」の両方が重要
まず見直したいのが、寝室の環境。
エアコンの設定温度は26〜28℃、湿度は50〜60%が快適な睡眠を促す目安です。
設定が低すぎると冷えすぎて中途覚醒の原因に。
逆にエアコンの「タイマー切り」で夜中に暑くなると、深部体温が下がらず目が覚めてしまいます。
おすすめは、朝まで弱運転+除湿モード併用。
最近では「おやすみモード」や「快眠モード」がついた機種も多く、うまく活用しましょう。
そしてもう一つ大事なのが風の向き。
風が体に直接当たると、表面温度が下がって「寒い」という情報が脳に送られ、眠りが浅くなります。
サーキュレーターで空気を循環させる、風除けを使うなどして、風を“当てない工夫”を忘れずに。
ぬるめのお風呂で「眠れる体温」に導く
暑いからといってシャワーだけで済ませていませんか?
実はそれ、睡眠の質を下げる習慣になっているかもしれません。
入浴には、深部体温を一時的に上げる→自然に下げるという流れを作る作用があります。
この“体温の落差”が、入眠をスムーズにしてくれます。
おすすめは、38~39℃のぬるめのお湯に10〜15分つかること。
就寝の1時間前がベストタイミングとされています。
血流がゆるやかに促進され、副交感神経が優位になりやすくなるのもメリットです。
朝の光と朝食が「体内時計」を整える
人の体には「概日リズム(サーカディアンリズム)」という24時間周期のリズムが備わっています。
これを調整するのが、光と食事のタイミングです。
朝起きたら、まずカーテンを開けて太陽の光を浴びる。
この刺激が、メラトニン(睡眠ホルモン)のリズムを正常に保ちます。
さらに、朝食をしっかりとることで胃腸が動き出し、自律神経のリズムも整いやすくなります。
「朝は食欲がない」という方も、まずはバナナ1本、ヨーグルト1個から始めてみてください。
リズムが整えば、夜には自然と眠気が訪れやすくなります。
“朝を制する者は、夜も制す”というわけです。
寝る前の水分補給で夜中のトラブルを防ぐ
意外と見落とされがちですが、夏の睡眠中は500ml近い水分が失われることもあります。
脱水は寝苦しさや中途覚醒、さらには熱中症リスクまで高めます。
「トイレに行きたくなるから」と水分を控える人もいますが、それは逆効果です。
寝る30分前を目安に、コップ1杯(150〜200ml)の常温水をとるようにしましょう。
常温で飲むことで体を冷やしすぎず、吸収もスムーズになります。
なお、利尿作用のあるカフェイン飲料(お茶・コーヒー)は避けた方が無難です。
エアコンの設定、入浴のタイミング、朝の過ごし方、水分補給。
どれも難しいことはありませんが、ちょっとした差が眠りに大きく影響します。
薬に頼る前に、まずは体のリズムと環境を整えることから始めましょう。
次章では、生活改善を行ってもまだ眠れない方へ向けた、“補助的な対策”をご紹介します。


第3章|生活改善でもダメなら?薬剤師が教える“あと一歩”の対策
機能性表示食品・市販薬・漢方の選び方
これまで紹介したように、夏の不眠対策の基本は生活習慣の見直しです。
でも中には、「環境も整えたし生活リズムも意識しているのに、やっぱり眠れない…」という方もいます。
そういうときこそ、補助的なアイテムの出番です。
ここでは薬剤師である筆者が、根拠のあるサプリメント・市販薬・漢方薬の中から、信頼できる製品を厳選してご紹介します。
なお、慢性的な不眠が1か月以上続いている場合や、日常生活に支障が出ている場合は、市販薬ではなく専門医への相談が必要です。
ここで紹介するのは、あくまで「一時的な不眠」や「あと一歩のサポート」に役立つ選択肢です。
<サプリメント:機能性表示食品>
■ ナイトミン 眠る力(小林製薬)
成分:クロセチン
機能性表示:眠りの深さ・すっきりした目覚めのサポート
対象:夜中に目が覚めやすい/朝起きても疲れが取れないと感じる方
クロセチンは、カロテノイドの一種。
抗酸化作用に加えて、睡眠の深さを改善する効果が確認されています(機能性表示届出:F454)。
メラトニンの分泌を補う働きが示唆されており、浅い眠りが気になる方にぴったりです。
体内リズムやホルモンの働きにも注目が集まっており、“自然な深い眠り”をめざしたい方におすすめです。
■ グリナ(味の素)
成分:グリシン(1回あたり3g)
機能性表示:入眠促進/深い睡眠の維持/翌朝のすっきり感向上
対象:寝つきに時間がかかる/眠りが浅く途中で目が覚める方
味の素のグリナは、アミノ酸「グリシン」を高濃度配合した睡眠サポート食品です。
深部体温を適切に低下させる作用があり、自然な入眠と深い睡眠を後押ししてくれます(届出番号:A42)。
味もクセが少なく、就寝前に飲みやすいのも魅力です。
<医薬部外品:栄養ドリンク>
■ アリナミンナイトリカバー
成分:グリシン、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6など
効能:神経疲労・倦怠感の軽減
対象:日中の疲れが抜けず、そのまま睡眠の質にも影響している人
日中の仕事や家事でぐったりしていても、うまく眠れないことってありますよね。
この製品は、いわゆる「寝る前用の疲労回復ドリンク」。
カフェイン無配合なので、神経を逆に高ぶらせる心配もなく、夜に飲みやすいです。
<一般用医薬品:睡眠改善薬>
■ ドリエル(エスエス製薬)
有効成分:ジフェンヒドラミン塩酸塩
効能効果:一時的な不眠の緩和(寝つけない/眠りが浅い)
注意点:連用不可・運転厳禁・高齢者や持病のある方は事前相談
ドリエルは、日本で最もポピュラーな市販の睡眠改善薬のひとつです。
抗ヒスタミン作用を応用し、脳を“鎮静モード”に導くことで入眠を助けます。
ただし、根本的な不眠解決を目的とした薬ではなく、「短期間での一時使用」に限ることが大前提です。
睡眠薬ではないとはいえ、日中の眠気が残ることがあるので、服用後の車の運転などはNGです。
<漢方薬:第2類医薬品>
■ ツムラ漢方柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒
効能効果:不眠や神経の高ぶり、イライラ感などに対応
適応:ストレスや自律神経の乱れによって、寝つきにくくなっている方に
注意点:冷えやすい方や体力が低下している方には合わない場合があります。
「神経が高ぶって眠れない」「布団に入っても脳が騒がしい」というタイプには、漢方が合うことがあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、交感神経が過剰に働きがちな人向けの漢方処方。
夜になると心がざわざわして眠れない…そんな方におすすめです。
漢方は体質との相性があるため、初めて使う場合は薬剤師への相談を忘れずに。
夏の不眠に悩む人の中には、「努力はしてるのに眠れない…」という段階にいる方も多いはず。
そんなときは、サプリメントや市販薬、漢方薬といった“補助的な手段”を取り入れるのも選択肢のひとつです。
ただし、これらはあくまで一時的なサポート役。
根本の生活習慣を整えずに、薬やサプリに頼りすぎるのは本末転倒です。
また、不眠が慢性化している場合や、「生活が回らないレベルでつらい」といった状態であれば、迷わず専門医を受診しましょう。
睡眠は健康の土台。
自分に合った方法で、無理なく“眠れる体”をつくっていきましょう。
まとめ|“夏の不眠”はこう防ぐ!
・深部体温の低下がカギ:夏は体に熱がこもり、眠りにくくなる
・自律神経が乱れやすい季節:気温差・紫外線・発汗が影響する
・メラトニン分泌もずれやすい:日照時間や光の刺激に注意
・まずは生活習慣の見直しを:室温・入浴・朝の光・水分がポイント
・補助的な対策も有効に使う:サプリ・市販薬・漢方薬は“あと一歩”の支えに
不眠対策は、つい「何かを飲めば解決」と思いがちです。
でも、眠れる体は生活のなかで少しずつ整えていくもの。
薬やサプリも役立ちますが、それは基礎が整ったうえでの“補助”として使うのが一番安全で効果的です。
夏の眠りは環境次第で大きく変わります。無理せず、自分のリズムに合った方法を選んでくださいね。
【参考情報】
この記事の作成にあたり、以下の公式情報を参考にしています。
ご自身での確認や商品選びの際にご活用ください。
◆ メーカー公式製品情報
・小林製薬|ナイトミン 眠る力
・味の素|グリナ ブランドサイト
・アリナミン製薬|アリナミンナイトリカバー
・エスエス製薬|ドリエル ブランドサイト
・ツムラ|柴胡加竜骨牡蛎湯 製品情報