モイストヒーリング(湿潤療法)について
「傷口は乾かないように保護したほうがよい」「いや、よく乾かしてカサブタを作らないとだめだ」と逆のことを言われた経験はありませんか?
傷口が乾かないように処置する「湿潤療法」は、治りが早く傷跡も残りにくいということで話題になった傷の治療方法です。今回は、湿潤療法のメリットや注意点について解説し、方法を紹介します。
湿潤療法(モイストヒーリング)とは?
湿潤療法は、自宅でも簡単にできる治療方法です。傷口を過度に洗わずに、湿った状態を保ちながら傷を治します。治療のメリットと注意点を知って、正しく取り入れましょう。 |
湿潤療法のメリットとは
湿潤療法には、以下のようなメリットがあります。
・痛みが少ない
・傷がきれいに治る
・傷の治りが早い
湿潤療法では、傷口から出てくる「滲出液(しんしゅつえき)」を利用します。滲出液には、細胞の成長をうながす成分が含まれるため、滲出液を傷口にとどめておくことで傷の治りがよくなるのです。滲出液をとどめるため、過度に水で流したり、消毒薬を使ったりしない点がカサブタを作る治癒方法とは異なります。
滲出液をガーゼなどに吸収させてしまうと、ガーゼが傷口に張り付き、交換の時に出血したり痛みを感じたりします。湿潤療法では、常に傷口は湿った状態なので、保護剤を交換する時の負担が少ないです。
目立つ部位に傷ができてしまったなど、きれいに修復したいときに湿潤療法をしてみませんか。
湿潤療法の注意点
メリットの多い湿潤療法ですが、おこなう場合にはいくつか注意点があります。
・ぬかるみなど、汚れた場所で生じた傷
・砂利などが入り込んだ傷
雨上がりのグラウンドで擦り傷ができた、海に遊びに行って岩場で切った……こんな傷は、湿潤療法には向きません。感染症の原因になる細菌が傷口に侵入した可能性があるので、消毒をしたり、異物を取り除いたり、場合によっては抗菌薬を使用したりする必要があります。あまり清潔でない場所でできた傷、異物が入り込んだ傷には注意が必要です。
・深いやけど
赤っぽい水ぶくれができた場合は、範囲が狭いものであれば水ぶくれを破らないように保護剤で覆って自宅で様子を見られることが多いです。しかし、範囲が広い場合、水ぶくれの色が白・黄色・黒に近い場合は、病院での処置が必要かもしれません。
・低温やけど
湯たんぽやホットカーペットなどで生じる低温やけども、注意が必要です。
はじめのうちは問題なさそうに見えても、後々皮膚の色が黒っぽく変色してくることがあります。皮膚の奥でやけどが進行しているかもしれませんので、病院での正しい判断が必要です。
・深い切り傷
ぱっくり開いている切り傷、血が止まらないくらい深い切り傷の場合は、縫合しなければならない場合があります。
・動物のかみ傷
動物にかまれて皮膚が欠けた、腫れが酷いという場合には、病院で抗菌薬の投与を受ける必要があるかもしれません。猫や野生動物は、人間の体にはない細菌を持っていることがあり、感染症の原因になることがあります。傷口はよく洗って、腫れがひどい場合は受診しましょう。
・傷口の周りまでふやけてしまった場合
傷の周囲の皮膚まで湿った状態にしていると、お風呂上がりのように皮膚がふやけてしまいます。そうなると、かえって傷の治りが遅くなるため注意が必要です。保護剤は傷口をしっかり覆う大きさでなければなりませんが、範囲が広すぎてもいけません。皮膚がふやけてしまった場合は、一旦少し乾かした方がよいかもしれませんので、医療機関でアドバイスを受けましょう。
ここで例に挙げたものは、湿潤療法を避けた方がよいものの代表例です。
大丈夫だと思って湿潤療法をやってみたところ「腫れてきた」「一向によくならない」ということがあるかもしれません。その場合は、早めに形成外科や皮膚科などの医療機関を受診しましょう。
湿潤療法ができるかどうか不安という方は、はじめに医療機関を受診して傷口の処置方法を教えてもらうと安心です。
糖尿病の方は、傷口の治りが遅かったり、感染症を起こしやすかったりするため、自己判断での処置は控えた方がよいでしょう。
湿潤療法をやってみよう
湿潤療法のやり方は、とても単純です。
<準備するもの>
・傷口の大きさに合った「ハイドロコロイド素材」の保護剤を用意する
ハイドロコロイド素材は、傷口を適度な湿度に保つように作られています。滲出液を吸ってクッションのように膨らむため、傷口を柔らかく守ってくれる点も湿潤療法に使いやすいです。
<実際の手順>
手順1
傷口は、流水で軽く洗い流す。きれいに洗ったら清潔なティッシュペーパーやタオルで水分をふき取る。
汚れた場所でできた傷でなければ、基本的に消毒薬は使用しなくてよいです。洗い流すと同時に、傷口に砂利などの異物が入り込んでいないか確認しましょう。
手順2
傷口に、ハイドロコロイド素材の保護剤を貼る。
滲出液が多くない場合や、治ってきて滲出液が減ってきた場合は、ワセリンを傷にのせて保湿してから保護剤を使用してください。ワセリンと他の保湿成分が混合されている製品もありますが、傷の保護には純粋にワセリンだけのものがよいです。
保護剤は、傷口をきちんとすべて覆える大きさのものを使用しましょう。
手順3
2~3日に1回は保護剤をはがして傷を観察する。観察後は新しい保護剤に貼り替える。
説明書には、数日間貼り続けてもよいと書かれている場合があります。ですが、手洗いをした場合、運動で汗をかいた場合、お風呂上がりなどは、水分でヨレてしまうでしょう。ヨレた時は、その都度貼り直してください。また、説明書に書かれているより長期間貼り続けるのは避けます。貼り替えるときには、傷口が赤く腫れていないか、傷口以外の皮膚がふやけていないか、よく観察しましょう。
万一、膿や腫れ、赤み、臭いがするなど傷口に異常が見られた場合は湿潤療法を中止して医師に相談して下さい。
<絆創膏タイプのハイドロコロイド素材>
キズパワーパッド
ケアリーブ
ハイドロコロイドメディカルパッド
<大きな傷や絆創膏で覆うのが難しい形の傷にはロールタイプも>
ハイドロール
ハイドロコロイド包帯アドバンス
まとめ
今回は、湿潤療法のメリットや注意点、方法について紹介しました。
湿潤療法は、傷を早くきれいに修復できる簡単な方法です。一方で、あまり深い傷や汚れた傷口には向きません。
お伝えした注意事項に気をつけながら、きれいに直したい傷に湿潤療法を試してみませんか?
<参考資料>
・日本創傷外科学会ホームページ
・Karen Ousey et al. The Importance of Hydration in Wound Healing: Reinvigorating the clinical perspective. J Wound Care. 2016 Mar;25(3):122, 124-30.
・Kristo Nuutila et al. Moist Wound Healing with Commonly Available Dressings. Advances in Wound Care, Vol 10, Num 12.
・盛山 吉弘. 不適切な湿潤療法による被害 いわゆるラップ療法の功罪. 日皮会誌:120(11), 2087-2194, 2010.