

インフルエンザ 妊婦・赤ちゃん・子供の症状と受診の目安|薬剤師が教える行動マニュアル
「熱が出たけど病院に行くべき?」「薬は飲めるの?」
妊娠中や小さな子供の体調不良は、判断に迷う場面が多いですよね。
特にインフルエンザは重症化や合併症のリスクもあり、早めの行動がカギになります。
この記事では薬剤師の視点から、妊婦さんや赤ちゃん、子供の症状の特徴と、受診・家庭でのケアのポイントをわかりやすく解説します。


第1章|妊婦がインフルエンザにかかると?リスクと症状
妊婦はなぜ重症化しやすいのか
妊婦さんは、通常よりもインフルエンザが重くなりやすいとされています。
理由は大きく3つあります。
1つめは免疫力の低下です。
妊娠中は赤ちゃんを守るために免疫の働きが一部抑えられており、ウイルスに感染しやすくなります。
2つめは肺活量の低下です。
お腹が大きくなるにつれて横隔膜が押し上げられ、肺活量が減少します。
そのためインフルエンザで咳や痰が増えると、呼吸困難になりやすいのです。
3つめは血液量の増加です。
妊婦さんの体は血液量が増加しており、心臓に大きな負担がかかります。
そこに高熱や脱水が重なると、一気に体調を崩してしまいます。
胎児への影響と妊娠時期ごとのリスク
妊婦さんにとって安心できる点として、インフルエンザウイルスが胎盤を通って胎児に直接感染することはこれまで報告されていません。
つまり「お腹の赤ちゃんにインフルがそのままうつる」という心配は基本的にないとされています。
ただし注意すべきは、妊婦本人の体調悪化が間接的に胎児へ影響することです。
高熱や脱水は子宮収縮の引き金となり、妊娠初期では流産リスク、後期では早産のリスクが高まることが知られています。
米国CDCのデータでも、妊娠後期の女性は非妊娠時に比べインフルエンザによる入院率が高いと示されています。
また、日本産婦人科学会も「妊娠後期は特に肺炎や合併症に注意が必要」と警告しています。
妊婦によく見られる症状
妊婦さんがインフルエンザにかかったときの症状は一般の方と同じですが、体への負担が大きくなる分、重く感じやすいのが特徴です。
・急な38度以上の発熱
・関節痛や筋肉痛
・強い倦怠感
・咳や息苦しさ
「ただの風邪かな」と思っていたら急に高熱が出て全身がだるくなるケースもよくあります。
妊婦さんにとってはこの変化が大きなストレスになりやすいのです。
受診の目安
妊婦さんはインフルエンザの症状が出たら、早めの受診が鉄則です。
特に以下のようなサインがあれば、すぐに医療機関へ連絡してください。
・38度以上の高熱が続く
・強い咳や呼吸困難を感じる
・水分が摂れない、吐き気で脱水が心配
・胎動が減少した
病院へ行く際は、必ず事前に電話をして「妊娠中でインフルエンザの症状がある」と伝えてください。
院内感染を防ぎ、より適切な診察につながります。
なお、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に使うことで効果が期待でき、妊婦にも処方可能な薬があります。
そのため「少し様子を見よう」とせず、早めに受診することが母子を守る大切なポイントになります。


第2章|赤ちゃん・子供の症状と見分け方
0〜6か月の赤ちゃん
生後6か月未満の赤ちゃんはインフルエンザにかかると重症化しやすいと言われています。
この時期はワクチン接種ができないため、感染すれば免疫のない状態で闘うことになります。
典型的な症状は以下の通りです。
・高熱(38度以上)
・母乳やミルクを飲まなくなる
・ぐったりして反応が弱い
・泣き止まない、機嫌が極端に悪い
「熱はないけれど元気がない」「授乳量が急に減った」などのサインは要注意です。
私が相談を受けたケースでも「ミルクをほとんど飲まないので受診したらインフルだった」ということがありました。
赤ちゃんは症状を言葉にできないため、小さな変化をキャッチすることが何より大切です。
1〜6歳の子供
幼児期になると、赤ちゃんより症状を表現できるようになりますが、それでも急激に悪化するのがインフルエンザの特徴です。
・突然の高熱(38度以上)
・咳や鼻水がひどくなる
・吐き戻しや下痢を伴うこともある
・機嫌が悪く、ぐずりが続く
「昨日まで元気だったのに、朝から急に高熱でぐったり」というパターンはインフルエンザでよく見られます。
熱の出方が急激であることが、風邪との大きな違いです。
風邪との違い
風邪は比較的ゆるやかに発症し、のどの痛みや鼻水から始まることが多いです。
一方でインフルエンザは38度以上の急な高熱と全身のだるさが特徴です。
また、頭痛や関節痛といった全身症状が目立つのもインフルエンザならではのサインです。
「熱だけでなく体全体がしんどそうにしているか」を見極めることが大切です。
受診すべきサイン
赤ちゃんや子供は体力の備えが少なく、体調の変化も急です。
次のようなサインがあれば、すぐに小児科を受診してください。
・顔色が悪く、青白い
・呼吸が早い、苦しそうにしている
・水分が摂れない、吐き気でぐったりしている
・痙攣を起こした
小さな子供ほど「様子を見すぎない」ことが大切です。
早めに医師に判断を仰ぐことで、重症化を防ぐことができます。


第3章|予防と受診の行動マニュアル
妊婦が受けても安全なワクチン
「妊娠中にワクチンを打っても大丈夫?」という不安はとても多いです。
日本産婦人科学会は、妊婦のインフルエンザワクチン接種を推奨しています。
さらに、米国のカイザー・パーマネンテ北カリフォルニア研究部門による大規模研究では、妊娠中にワクチンを接種した母親から生まれた赤ちゃんは、接種していない母親から生まれた赤ちゃんと比べて、生後6か月までのインフルエンザ発症リスクが44%低下することが示されています。
これは母体だけでなく、赤ちゃんを守る上でも大きなメリットになります。
家庭内での予防策
ワクチンを打っても「日常の予防行動」が欠かせません。
・石けんでの手洗い
・外出後のうがい
・室内を加湿して湿度を50〜60%に保つ
・マスクの着用(特に流行期や外出時)
・タオルや食器を家族で共用しない
赤ちゃんは自分で予防ができません。
だからこそ、家族全員で感染予防に取り組むことが大切です。
受診の流れと注意点
妊婦さんや子供に発熱などの症状が出たら、まずは医療機関へ電話で連絡してください。
妊婦さんは産婦人科または内科、小さな子供は小児科を優先しましょう。
「妊娠中です」「幼児です」と伝えることで、院内感染対策や診察の流れがスムーズになります。
特に妊婦さんは肺炎や脱水を起こしやすいため、様子を見すぎず早めに受診することが母子を守る一番の行動です。
抗インフルエンザ薬の扱い
インフルエンザと診断されると、抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザなど)が処方されることがあります。
妊婦さんや小児にも使用例があり、安全性が確認されている薬です。
重要なのは、発症から48時間以内に使用することで効果が期待できるという点です。
だからこそ、「少し様子を見てから」ではなく、早めの受診が欠かせないのです。
自宅でのケア
診断を受けた後の回復期は、治療薬だけでなく「生活の工夫」も大事です。
・経口補水液でのこまめな水分補給
・白がゆや具の少ないスープなど、消化にやさしい食事
・睡眠と安静をしっかり確保する
無理に食べさせる必要はなく、「食べられるものを少しずつ」で大丈夫です。
体を休める環境を整えることが、母子の回復につながります。


第4章|インフルエンザに関するよくある質問(Q&A)
Q:妊娠初期にインフルで発熱したら赤ちゃんに影響する?
A:インフルエンザウイルスが胎盤を通って胎児に直接感染することはありません。
ただし、高熱や脱水が流産や発育へのリスクにつながる可能性があります。
妊娠初期は特に注意が必要なので、発熱したら早めに受診してください。
Q:授乳中でも薬は飲める?
A:多くの抗インフルエンザ薬は授乳中でも使用可能です。
母乳に移行する量はごくわずかで、臨床的に問題はないとされています。
ただし、必ず医師の診断を受けて処方された薬を服用しましょう。
Q:赤ちゃんや子供にうつる?どう防ぐ?
A:インフルエンザは家庭内感染がとても多いため、予防が大切です。
・石けんでの手洗い
・マスクの着用
・寝室や寝具を分ける
また、ワクチン接種は生後6か月以降から可能になります。
赤ちゃんを守るためには、家族全員で感染予防に取り組むことが欠かせません。
Q:妊婦や子供でも解熱剤は使える?
A:インフルエンザの解熱には、妊婦や小児ではアセトアミノフェンが第一選択とされています。
一方でイブプロフェンやアスピリンは使用できない場合があるため、自己判断は危険です。
必ず医師の指示に従ってください。
Q:子供は何日休ませればいい?
A:インフルエンザの場合、学校保健安全法で「発症後5日かつ解熱後2日」が登校の目安とされています。
未就園児でも同じ基準を参考にし、体調の回復を優先することが大切です。
無理に登園・登校させると再発や二次感染につながるため、しっかり休ませましょう。
詳しくは、インフルエンザ出勤停止・登校停止:学校復帰の正しい日数を薬剤師が解説!も参考にしてください。
まとめ:押さえておきたいポイント
妊婦さんや小さなお子さんがいる家庭では、「心配しすぎても、油断してもダメ」というバランスが難しいですよね。
でも、正しい知識とちょっとの工夫で、母子を守る力は確実に高まります。
体調に不安を感じたら、一人で抱え込まず早めに医師へ相談してください。
薬剤師としても、「行動の早さが安心につながる」と強くお伝えしたいです。
【参考情報】
この記事の作成にあたり、以下の公式情報・専門機関の公開情報を参考にしています。
ご自身での確認や受診判断の際にご活用ください。
◆ 医療機関・学会公式情報
・日本産婦人科学会|産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2023
・厚生労働省|インフルエンザQ&A
・国立感染症研究所|インフルエンザに関する情報