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更新日:2022/09/14

再生医療シリーズ~心臓領域~

今回は心臓外科領域の再生医療について話したいと思います。心臓外科領域の疾患で再生医療が応用され始めているのは弁膜症と心不全という疾患です。
本記事ではこの2つの疾患に絞って話を進めようと思います。

医師ライター Syoss

心臓の解剖

 まず、弁膜症や心不全といった疾患の話をする前に心臓の解剖に関して説明していきます。心臓は全身に血液を送るためのポンプ機能を有しています。心臓には4つの部屋があり、血液の流れる順に以下のようになっています。
全身の組織⇒上大静脈・下大静脈⇒右心房⇒右心室⇒肺動脈⇒肺⇒肺静脈⇒左心房⇒左心室⇒大動脈⇒全身の組織へ
心臓がこのように血液を流しポンプ機能を果たすには心臓の壁や弁が上手に動くことが重要です。心臓の弁は計4つあります。右心房と右心室をつなぐ三尖弁、右心室と肺動脈をつなぐ肺動脈弁、左心房と左心室をつなぐ僧帽弁、左心室と大動脈をつなぐ大動脈弁があります。

弁膜症

4つの弁が上手く動かせなくなった状態のことを総称して弁膜症と呼びます。弁膜症には弁が上手く開くことの出来ない狭窄症、上手く閉じることの出来ない閉鎖不全症があります。弁の動きが悪くなる原因として考えられているのは、加齢や感染症、先天的な要因があります。これらは4つの弁すべてに起こりうるため、4×2で計8種類の弁膜症がありますが、そのうちの多くは大動脈弁と僧帽弁です。そのため、2つの弁の狭窄症と閉鎖不全症について説明します。

大動脈弁狭窄症

大動脈弁は左心室から大動脈へと血流を流す箇所に存在するため、大動脈弁が上手く開かないと全身に血液を送りづらくなります。そのため、血液を十分に送る時に左心室に施錠な場合よりも圧がかかってしまい、左心室の壁が厚くなることがあります。最終的に壁が厚くなることで左心室が十分に収縮できなくなるので、後述する心不全の原因にもなりえます。

大動脈弁閉鎖不全症

心臓が収縮して全身に血液を送り出した後に大動脈弁が閉鎖することで、大動脈から左心室に血液が逆流するのを防いでいます。しかし、大動脈弁閉鎖不全症では上手く閉じないために大動脈から左心室に血液が逆流してしまいます。そのため、左心室に負荷がかかり左心室の壁の肥厚や機能低下をきたします。これにより、息切れや動悸、呼吸困難などの症状を呈することもあり、また大動脈弁狭窄症と同様に心不全の原因になります。

僧帽弁狭窄症

僧帽弁は左心房と左心室の間にあるので、僧帽弁狭窄症により左心房から左心室に血液を上手に送れなくなります。その結果、左心房に血液が滞り負荷がかかるため心不全や肺の血管に血液が停滞する肺うっ血という状態を引き起こすことがあります。また、左心房に負荷がかかる状態が続くと心房細動という不整脈を引き起こすこともあります。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁が上手に閉じられなくなる僧帽弁閉鎖不全症では、血液が左心室から左心房に逆流してしまうことがあります。そのため、左心房の血流が過度になってしまい左心房に負荷がかかるため、僧帽弁狭窄症と同様に心不全や肺うっ血、心房細動を引き起こす可能性があります。

治療―外科的治療を中心に

弁膜症の治療は、まず薬物治療を行いますが根本的な治療法はカテーテル治療と外科的治療に分かれます。ここでは再生医療に関わる外科的治療について述べたいと思います。手術では問題のある弁を切り取り新しい人工弁に取り換える弁置換術と、弁の問題のある部位のみを修復する弁形成術があります。弁置換術で使用される人工弁には機械弁と生体弁の2種類があります。生体弁と比較すると機械弁のほうが耐久性に優れるというメリットがあります。一方で、体の中に人工物を入れ続ける必要があるので、血栓を予防するためにワーファリンなどの抗凝固薬を一生内服する必要が生じます。生体弁はヒトの解剖に比較的近いとされているブタから製造されています。機械弁よりも耐久性には劣りますが、抗凝固薬を飲み続ける必要はありません。どちらにもメリット・デメリットがあるため、患者さんの希望や年齢などを総合的に考慮してどちらを使用するか決められています。

弁膜症に対する再生医療

弁膜症に対する再生医療で研究が進められているのが、先天性の弁膜症を有した患者に対する脱細胞化ヒト心臓弁の移植です。弁膜症の原因の多くは加齢による弁の変性であるため、弁膜症の手術を受ける方は高齢であることが多いです。しかし、なかには先天性心疾患により弁膜症の治療を早期から開始しなければならない方もいます。その場合、人工弁では機械弁・生体弁のいずれにしても耐久性の観点から再手術が必要になります。そのため、既存の人工弁よりも耐久性の高い人工弁の発明が期待されていました。そのような状況のなかで開発が進められているのが脱細胞化ヒト心臓弁です。名前の通りこの弁はヒトから作られたもので、心臓移植をする際にレシピエント(移植を受ける患者)から提供されています。ヒト由来の弁であるため移植後の拒絶反応の少なく、かつ耐久性にも優れているとの報告があります。まだ研究されている最中ですので保険適応は通っていませんが、日本では大阪大学を中心に臨床研究が進められています。

心不全

心不全は名前の通り様々な要因により心臓の機能が低下している状態のことを言います。
原因としては先述した弁膜症や不整脈、心筋梗塞など心臓に由来するものから、貧血や感染症、甲状腺の機能異常など心臓とは一見関係のなさそうなこともあります。症状としては、心機能低下により全身に酸素を含んだ十分な血流がいきわたらなくなるので、息切れや動悸、呼吸困難などがあります。また、全身の血液が心臓に戻りにくくなるので、体のむくみなどが生じます。治療は薬物療法がメインですが、心不全の進行を遅くするものであり対処療法に過ぎません。また、薬物療法の効果が不十分である場合は原因を根本的に解決するしかありません。例えば、原因が先述した弁膜症であった場合は外科的治療を行うことが根本的な治療法になります。しかし、複数の要因から心不全をきたしている場合は外科的治療などの根本的治療が困難であることもあり、治療に難渋することが少なくありません。

心不全に対する再生医療

心不全に対する再生医療として2015年9月に保険適応が通ったものが「ハートシート」と呼ばれるものです。これは薬物治療などの効果が乏しい重症心不全に対し新たな治療法になるのではないかと期待されています。ハートシートは患者さん自身の筋肉組織を採取し、そこから培養した筋芽細胞をシート状にしたものです。患者さんの心臓に移植することにより心臓の機能が改善されることが臨床研究で明らかになっています。これにより、今までは薬物治療で耐え忍ぶほかなかった重症の心不全に対する根治療法になるのではないかと考えられています。

まとめ

本記事では心臓領域の再生医療に関して説明しました。心疾患で亡くなる方は1年間でおよそ20万人程度となっており、癌に次ぐ死亡の原因疾患となっています。そのため、先述した再生医療の研究がすすめば、より多くの人の命が助かるのではないかと期待されています。