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お薬コラム
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更新日:2022/03/13
咳、痰

「咳が止まらなくて夜眠れない」「痰がからんで息苦しい」など、喉の症状で困った経験は誰にでもあるでしょう。

咳止めは市販薬でもたくさんの種類があるため、とりあえず何でもいいのかなと思ってしまいがち。ですが、原因や年齢に合わせて適切な薬を選ばなければ、不必要な成分まで摂取してしまうかもしれません。

今回は、咳や痰に用いられる市販薬の使い分けについて解説していきます。

監修薬剤師 ハラクロ
薬剤師ライター 中山 歩実

咳と痰は一体なに?

「むやみに咳を止めてはいけない」と聞いたことがある方もいるでしょう。咳や痰は、原因や程度によって止めてもよいか、止めない方がよいか変わります。
咳と痰はからだの防御反応

咳は、空気中からからだに入りこむウイルス・細菌・ほこりなどの異物を外に出すための防御反応です。喉や気管には、異物を感知して咳を出すためのセンサーがたくさんついています。
痰は、気管の表面を覆っている粘液が異物とくっついたものです。普段は少しサラッとしていますが、異物とくっつくことで炎症が起きると粘り気が強くなり、痰になります。
異物を絡みとった痰が、咳とともに外に出されるという仕組みなので、どちらもある程度は必要なものです。

咳が出る病気は?

咳が出る病気はさまざまありますが、市販薬で対応できるものは主に「風邪」です
気管支喘息の咳には、市販の咳止め薬がほとんど効きません。気管支喘息の方は、定期的に受診をし、予防薬を使ったり、喘息に効果のある咳止め薬をもらったりしておくようにしてください。

市販の咳止め・痰の薬の特徴と使い分け

咳と痰は、ある程度必要なものではありますが、体力が消耗され、あまり酷いと学校生活や仕事に支障が出てしまいますよね。「咳止め薬」「去痰薬」「気管支拡張薬」「抗ヒスタミン薬」などを上手に使い分けて、症状を楽にしましょう。

咳止め薬の特徴、比較

喉の痛みや鼻水・熱など風邪の症状を伴うとき、および風邪のあとに咳が長引いているとき(感染後咳嗽)に咳止め薬を使用できます。以下の表は、咳止め薬の特徴をまとめたものです。

咳止め薬の成分名 咳止めの強さ 風邪 感染後
咳嗽
使用年齢 副作用の有無
12歳未満 眠気 便秘 依存性
デキストロメトルファン × ×
チペピジン × × ×
ノスカピン × × ×
コデインリン酸塩 ×
ジヒドロコデイン ×

デキストロメトルファンは、病院の処方薬としてもよく使われる成分です。子供から大人まで、比較的安全に使用することができます。少し眠気が出ることがありますので、車や自転車の運転は控えましょう。

 

新コンタックせき止めダブル持続性

非麻薬性の咳止めデキストロメトルファンを配合、
持続性カプセルのため1日2回の服用で24時間効果を発揮します。

チペピジンも、小児科でよく処方されるシロップの1つです。市販薬では錠剤や粉薬も販売されています。眠気も出ないため、学校のある日でも使いやすいでしょう。

 

セキセチンSP錠

眠気が出ない咳止め成分チペピジンを配合。服用後の車の運転が可能です。

コデインリン酸塩ジヒドロコデインは、「麻薬性」の咳止め薬です。眠気が出ますので、車や自転車の運転は控えてください。脳内の咳中枢という部分に直接働きかけ、咳を止めます。喘息を悪化させるため、喘息のある方は使用できないほか、痰が多いときにも使用を控えてください。
依存性があるため、自己判断で長く使用することはおすすめできません。感染後咳嗽にも用いることはできますが、咳が長引いている方や頻繁に咳でお困りの方は、医療機関を受診しましょう。

 

アネトンせき止め錠

有効成分コデインリン酸塩がつらい咳を鎮めます。
飲みやすいフィルムコーティング錠で、12歳以上から服用可能です。

去痰薬の特徴

去痰薬は、「ごほごほ」と湿った咳や痰のからむ咳に使用できます。タバコを吸うことで慢性的な痰に悩んでいる方にも効果が見込めます。「コンコン」という乾いた咳、痰のからまない咳の場合、去痰薬は必要ありません。

カルボシステインエチルシステインは、痰の粘つき成分を分解し、サラサラにする薬です。痰が多いときに向いています。

ブロムヘキシンは、痰を薄めて粘つきを抑える薬です。一時的に、痰の量が増えたように感じるかもしれません。痰の量は少ないけれど、粘つきが強くて苦しいような場合に使ってみてください。

グアイフェネシンは、痰を薄めて粘つきを抑えるほか、脳内の咳中枢に働きかけて咳を止める作用もあります。

リゾチームは、卵由来の酵素がもとになった薬です。卵アレルギーの方は使用できませんので、注意してください。副作用はほとんどありませんが、効果も弱いです。

 

クールワン去たんソフトカプセル

「去痰薬」だけの製剤です。カルボシステインとブロムヘキシンの2種類の去痰成分を配合し、つらい痰症状を改善します。また副作用の心配が少ない薬です。

気管支拡張薬の特徴
気管支拡張薬は、喘息以外の咳には効果がないばかりか、動悸や手の震えなどの副作用だけが出てしまいます。喘息があり、「ヒューヒュー」「ぜいぜい」する咳が出るときに使用しましょう。
喘息によって狭くなった気管支を広げ、呼吸を楽にする薬です。

テオフィリンは、薬や食べ物によって効果に影響を受けやすい薬です。効果が強く出すぎると、吐き気や頭痛、意識障害などを起こします。逆に、薬の飲み合わせによっては効果が弱まってしまうことも。使用する場合には、薬剤師に飲み合わせを確認しましょう。

メチルエフェドリンは、気管支を広げるだけでなく、脳内の咳中枢にも働く薬です。神経を興奮させる作用があるため、ドーピング薬物に指定されています。スポーツをしている方は、注意してください。

また、風邪のあとに何週間も咳だけが続いてしまう方は、「咳喘息」かもしれません。
咳喘息は、喘息とは違い「ぜいぜい」することは少なく、痰もあまり出ませんが、気管支拡張薬が効くという特徴があります。きちんと治療をしないと、数年以内に半数程度の人は気管支喘息に進行してしまいます。咳が長引きやすい方は、医療機関を受診してみましょう。

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬は、花粉などのアレルギー反応で咳や痰が出ているとき、鼻水が喉に垂れてきて痰になってしまう「後鼻漏」のときに効果的です。
アレルギーのもとになる「ヒスタミン」をブロックして、咳や痰・鼻水を抑えます。ジフェニルピラリンジフェンヒドラミンクレマスチンクロルフェニラミンなどの成分がよく用いられます。

風邪薬に配合されている抗ヒスタミン薬は、眠気の出るタイプがほとんど。アレルギー症状だけであれば、抗ヒスタミン薬単独の薬で、眠気が出にくいタイプの「フェキソフェナジン」「ロラタジン」などを選んだ方がよいでしょう。

 

漢方薬で咳や痰に効果のあるもの

漢方薬でも使用できるものがあります。

麦門冬湯の特徴

麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、痰の少ない咳、喉が乾燥して「コンコン」と乾いたような咳、風邪のあとに長引く咳などに効果的です。体力が落ちている人に効果が出やすいとされます。

 

「クラシエ」漢方麦門冬湯エキス顆粒A

生薬成分の承認基準内の最大量を配合している満量シリーズです。

小青竜湯の特徴

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、粘つきの少ない痰や鼻水が出るときの風邪やアレルギー症状によく用いられます。比較的、どんな体質の方にも使いやすい漢方薬です。

 

新・ロート小青竜湯錠II

錠剤タイプで、1日2回服用で効果を発揮します。

五虎湯の特徴

五虎湯(ごことう)は、気管支を広げたり痰を出しやすくしたりする作用のある漢方薬です。体力のある人向けの生薬が使われています。喘息のある方や、ひどい咳が続いている方は試してみてはいかがでしょうか。

 

「クラシエ」漢方五虎湯エキス顆粒A

生薬成分の承認基準内の最大量を配合している満量シリーズです。

麻杏甘石湯の特徴

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)も、気管支喘息などの強い咳が出ているときに用いられます。汗をかいたり、口が乾いていたりする場合に効果が出やすいです。

 

ツムラ漢方麻杏甘石湯エキス顆粒

1日2回服用の顆粒剤です。

 

自分の状態や体質に、どの漢方薬が向いているかわからないときは、薬剤師や登録販売員に相談してください。

「総合風邪薬」はどうなの?

風邪薬には、シンプルな成分のものと、総合風邪薬と呼ばれるものがあります。「総合××」「◯◯EX」のような名称の薬は効果がありそうに感じ、つい選びたくなってしまいますよね。では、総合風邪薬には、一体どんな特徴があるでしょうか。

・解熱剤のアセトアミノフェンが入っていることがある
・副作用の眠気をカバーするためのカフェイン、無水カフェインが入っていることが多い
・風邪症状を全体的に抑えられるように多種類の薬が配合されている

例えば、「咳はひどいけど鼻水も熱もない」というときに、解熱剤や抗ヒスタミン薬は不要です。数日飲むだけであれば、それほど大きな悪影響はないことも多いですが、薬はできるだけシンプルな成分のものを飲むのをおすすめします。持病や年齢によっても成分の向き不向きがありますので、薬剤師や登録販売員に確認してください。

症状が長引くときは受診を

咳が長引くとき、症状が重いときには医療機関を受診しましょう。目安として、市販薬を使用して3日経っても症状が良くならない、悪化している場合は受診が必要です。
また、喘息は、市販薬では治療できません。きちんと予防薬を使用して喘息発作を抑えなくては、どんどん悪化してしまいます。大人になってから喘息とわかることもありますので、一度検査をしてみませんか。
風邪や喘息以外にも、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、心不全、食道炎などでも咳は出ますし、薬の副作用で咳が出る場合もあります。原因がわからない長引く咳や痰は放置せず、医療機関を受診しましょう。

 

<参考資料>
・山内康宏. 気管支喘息の疫学:現状と近未来. 日本内科学会雑誌, 107巻10号, 2018