傷薬
ちょっとした切り傷やすり傷ができた時は、できることなら悪化させずに、早く治したいですよね。
その際に「傷用の塗り薬って、使った方がいいの?」という疑問も出てくるのではないでしょうか。
このコラムでは傷薬の基礎知識から、その必要性について、現在医学的にはどのように捉えられているかをお伝えさせていただきます。
後半では、傷薬に含まれる有効成分や補助成分、さらにおすすめの製品までご紹介させていただきますね。
傷薬(塗り薬)とは?
外傷による傷口に使用する塗り薬のことを指し、主に「傷口の殺菌・消毒などの目的」で使用されます。
そのため、主成分は殺菌・消毒成分ですが、種類によっては抗生物質が含まれているものや、皮膚の修復を助ける成分やかゆみ止めの成分などが配合されているものもあります。
傷薬には傷口の乾燥を防ぎ、保護する役割もあるため、剤形に関しては、ほとんどが油分の多い軟膏タイプになっています。
傷薬は必要なの?
一昔前までは傷口の化膿を防ぐため、消毒して乾燥させるのが当たり前でした。
しかし「殺菌・消毒成分は細菌だけでなく、正常な皮膚の成分まで壊してしまうことから、傷口の消毒は避けた方がいい」という考えの方が今や主流となってきています。1)
この流れを受け、消毒薬と同じ有効成分を持つ傷薬に関しても不要という説も見受けられます。
ただ、消毒薬と異なり、傷用の軟膏は元々殺菌・消毒成分の濃度が低いのに加え、徐々に放出される造りになっていることから、傷口での濃度はかなり低く、正常な皮膚への影響は少ないとも考えられています。2)
また、傷口の乾燥防止・保護の目的としての軟膏使用は推奨されています1)し、傷薬に含まれる補助成分には傷の修復を促進するものや、かゆみ・痛みを抑える作用も期待できます。
そのため、必ずしも殺菌・消毒成分を持つ傷薬は必要・不要と言い切ることはできないというのが現状です。
ちなみに、医療現場においては殺菌成分ではなく、抗生物質が含まれた軟膏を使用することが多いです。
市販のものにも似た成分の抗生物質を含む軟膏が販売されていますが、漫然と抗生物質入りの軟膏を使用し続けていると、耐性菌が出現する可能性もあります。
傷に使用することができるとされている以外の抗生物質入り軟膏を、自己判断で使用することは避け、抗生剤入りの軟膏に限らず、傷薬の使用は1週間以内に留め、長期間使用することは避けましょう。
市販の傷薬に含まれる殺菌・消毒成分
・イソプロピルメチルフェノール
細菌や真菌の蛋白質を変性させることで殺菌消毒作用を示します。
人体への毒性も低く、扱いやすいため、制汗剤、薬用石けん、薬用はみがき、ハンドソープなど、幅広い製品に配合されています。
・クロルヘキシジングルコン酸塩
一般細菌、真菌に対して比較的広い殺菌消毒作用を示し、ニキビの原因となるアクネ菌にも効果があるため、ニキビに対して使用することもあります。
・塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム
逆性石鹸と呼ばれる界面活性剤の一種で、人体への安全性も高く、洗濯や掃除にも使われます。
その他、手指消毒剤の主成分としても多く使用されています。
・ポビドンヨード
ヨウ素特有の茶色と匂いが特徴的で、細菌だけでなく、ウイルスや真菌にも効果を示します。
市販の傷薬に含まれるその他の成分
傷の修復を助けたり、かゆみ、腫れをおさえたり、痛みをおさえたりする成分が補助成分として含まれています。
・抗生物質(コリスチン、バシトラシン)
細菌が悪さをしないよう抑制する作用は殺菌・消毒成分と一緒ですが、殺菌・消毒成分が細菌の侵入を予防する役割があるのに対し、抗生物質は感染し、化膿してしまった際にも効果を示します。
・アラントイン
粘膜や皮膚の修復をサポートする作用があり、リップクリームや化粧品などにも含まれていることが多い成分です。
・クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン
抗ヒスタミン作用により、かゆみや腫れを抑える作用があります。
・ジブカイン、リドカイン
局所麻酔作用により、痛みを緩和します。
・酸化亜鉛
皮膚を保護し、炎症を抑える役割があります。
おすすめの市販傷薬
<皮膚症状にも使いたい人へ>
オロナインH軟膏
有効成分:クロルヘキシジングルコン酸塩
特徴:ニキビや手湿疹、また水虫、あかぎれなど幅広い用途に使用できます。
製剤タイプも11gの小ぶりなチューブから250gの大容量ボトルまで豊富にラインナップされており、家庭での常備薬としても使いやすいでしょう。
ドルマイシン軟膏
有効成分:コリスチン、バシトラシン
特徴:傷口に対しても使用できる数少ない市販の抗生剤入り軟膏で、二種類の抗生物質が多くの菌に対して抗菌作用を示します。
化膿の疑いがある傷におすすめで、おできやとびひなど、皮膚の感染症に対しても使用することができます。
<肌の回復を早めたい・かゆみや痛みを抑えたい人へ>
マキロンsキズ軟膏
有効成分:ベンゼトニウム塩化物、クロルフェニラミンマレイン酸塩、アラントイン
特徴:消毒薬で馴染みのあるマキロンと同ブランドで販売されている傷用軟膏で、有効成分はマキロンシリーズで全て同じです。
かゆみを抑える抗ヒスタミン成分と、肌の修復を促進するアラントインが傷口の回復をサポートします。
メモA
有効成分:クロルヘキシジングルコン酸塩液、ジブカイン塩酸塩、アラントイン、トコフェロール酢酸エステル、酸化亜鉛
特徴:消毒成分以外にも痛み止め成分や、肌の修復促進、血行促進に炎症改善など、補助成分が複数配合されています。
20g入りのチューブタイプと、つぼタイプの30g入りがあります。
まとめ
傷口に対して使用する傷薬の塗り薬について、基本的な知識からおすすめの製品までお伝えさせていただきました。
傷薬の必要性については、賛否両論見られるところもありますが「傷口の保護という面での軟膏使用は推奨されている」のが事実です。
大切なのは「自己判断で漫然と傷薬を使用し続けないこと」です。
傷がなかなか回復しなかったり、腫れがひどい、発熱が見られるといった全身性の感染の可能性があったりする場合は、必ず医療機関を受診するようにしましょう。
このコラムが傷薬をお探しのあなたにとってお役に立てれば幸いです。
〈参考資料〉
1)創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン(皮膚科学会)
2)創傷は原則消毒しない 塚田邦夫(高岡駅南クリニック)