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お薬コラム
Medication Column List
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更新日:2022/08/13
「擦り傷に消毒薬はもういらないの?」現在の正しい初期治療について薬剤師がご説明します。

「転んで擦り傷ができた」「包丁で指の先を切った」

 

そんなときはどのように処置されていますか?

昔から変わらず「とりあえず消毒してガーゼ」という方もいるのではないでしょうか。

 

実はこういった傷の対応に関しては昔と今で大きく考え方が変わっています。

ここでは、擦り傷、切り傷、刺し傷といった種類の傷に推奨されている初期治療、また消毒薬に関する現在の捉え方をご紹介いたします。

「湿潤療法(モイストヒーリング)」という言葉を一度も聞いたことのない人は、ぜひ読んでいただきたいです。

監修薬剤師 ハラクロ
薬剤師ライター ひまわりうさぎ

擦り傷・切り傷・刺し傷の正しい処置は?

今現在推奨されている、擦り傷、切り傷、刺し傷に対する応急処置をご紹介させていただきます。

1.傷を洗浄する
水道水で構いませんので、まずは傷口から異物や細菌、ウイルスなどが侵入しないように傷やその周辺をしっかり洗浄しましょう。

2.止血する
出血がある場合、洗い流した後に清潔なガーゼやハンカチを直接傷口にあてがい、圧迫します。
ある程度の出血がある場合は、傷口より心臓に近い動脈を強く圧迫し、可能であれば傷口を心臓より高い位置に置きます。

3.傷口を保護する
出血が止まったら、可能であればワセリンや傷用の軟膏を傷口に塗り、その上からラップや絆創膏で覆います。

傷口を乾燥させないようラップや絆創膏で覆いながら湿潤環境を保ち、傷の回復はジュクジュクした滲出液に任せるというこの方法を「湿潤療法」と呼び、皮膚科学会が出しているガイドラインにおいても「消毒・乾燥を行う方法はかえって治癒を遅延させるため、湿潤療法が推奨されるようになってきている」とされています。1)
「しっかり消毒して乾燥させないと感染・化膿してしまうのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、感染予防で一番大切なことは、傷をしっかり洗浄することです。
それでは消毒薬の出番は完全に無くなってしまったのでしょうか?

傷の消毒はいらなくなったの?

擦り傷や切り傷、また棘などによる刺し傷などができてしまった場合、一昔前までは洗浄を行った後に消毒薬を用いて消毒を行い、傷口を保護する際は通気性を保ち乾燥させておくのが一般的でした。
しかし、今やその常識が大きく覆され、消毒はほとんどの場合で不要であると言われています。
そもそもなぜ消毒が不要だと言われ始めたかというと、消毒は細菌などを死滅させ、傷口の化膿を防ぐといった目的で行いますが、それと同時に皮膚の正常な細胞まで傷めてしまうことが分かってきたのです。
また、傷口を乾燥させることで、ガーゼ交換などのタイミングで再生した皮膚が剥がれてしまい、かえって傷の回復を遅れさせてしまうとも言われています。
結果的に、消毒薬を使用することで傷の治りが遅れ、かつ傷跡も残りやすくなってしまうのです。
傷口からの感染を防止するためには、傷口をしっかり洗浄して、異物や細菌を落とすことが最も大切であると言われ、傷口の回復は浸出液を利用するという湿潤療法に医療現場での対応が置き換わっています。
医学の世界は日々進歩しているため、今までの治療法が変更されるということも珍しくはありませんが、それでは消毒は完全に不要になったのかというと、そうとも言い切れません。
傷の種類や症状によっては、医師の判断により消毒の処置がなされる場合があります。
湿潤療法は、化膿していない傷で初めて効果が期待できますが、膿が出ているような傷では密閉することで細菌の繁殖を助けてしまい、傷はかえって悪化してしまいます。
そのため、痛みやかぶれ、傷口の赤みや腫れ、発熱などがある場合は消毒薬を使用する必要もあります。
消毒は完全に悪者という見方はやめ、状況により消毒の有無を使い分ける必要があるでしょう。

湿潤療法について、詳しい内容についてはこちらの記事もご参照ください。

家庭で消毒薬を使う場合は?

転んで擦りむいた、指の先を少しだけ包丁で切った、家庭で処理できるこういった程度の傷であれば消毒の必要性はかなり低いと言えるでしょう。
それでも家庭において消毒薬を使用した方がいい場面も存在します。
傷の処置で重要とされる洗浄という目的を重視し、市販の消毒薬の中にはスプレーやジェットタイプで洗浄機能を備えている製品も販売されています。
もし登山やキャンプ、旅行先などで水道水などが回りになく、清潔な水で洗浄できない場合は、そういった製品を使って患部を洗浄しておくと安心でしょう。
また、怪我をしたのが3歳未満の子供である場合は、市販のハイドロコロイド製剤やラップは誤飲の可能性もあるため、湿潤療法は避けた方が良いとも言われています。
もちろん、しっかり洗浄してワセリンなどを塗っておくだけで自然治癒も期待できますが、市販の消毒薬には傷の治りを促進する成分が含まれていたり、痛みやかゆみを抑える成分が含まれていたりするものも多いです。
そのため、湿潤療法を行うのが難しい子供に対して、こうした消毒薬を使用するという考えもあるでしょう。

消毒薬の詳しい説明や製品の選び方については、こちらの記事もご参照ください。

消毒成分を含む傷薬(塗り薬)も不要なの?

消毒薬とはまた別に、傷口を保護する際にワセリンや傷薬の軟膏を塗っておくことがあります。
傷薬の軟膏には消毒薬と同じ殺菌消毒成分が含まれていることも多いですが、こちらの軟膏に関しても、使用しない方がいいのでしょうか?
傷薬に配合されている殺菌・消毒成分に対しては、消毒薬と同じく、否定的な意見も見受けられます。
しかし、消毒薬に含まれている殺菌成分と比較して、傷薬の軟膏に含まれているものは濃度がかなり低くなっていますし、徐々に傷口に有効成分が浸透していく仕組みになっていることで、細菌にのみ選択的に効果を示す2)とも言われています。
また、軟膏に含まれる油分が傷口の乾燥を防ぐという目的の他、補助的に配合されている成分が傷口の修復を促進したり、痛みや痒みを抑えたりするなどの効果で傷の回復のサポートをしてくれます。
傷薬に関しては消毒薬より否定的な意見も少ないですが、気になる方はワセリンなどで保護するだけでも十分効果はありますよ。

傷薬の詳しい説明や選び方についてはこちらの記事もご参照ください。

まとめ

現在推奨されている傷薬の初期治療、また消毒薬・傷薬に対して現在の医療現場における捉え方などについてお話しさせていただきました。
消毒薬については、昔と比較すると不要であるという意見が多くなっており、代わりに湿潤療法が推奨されてきています。
しかし、消毒薬が全てにおいて不要となったわけではなく、アウトドア時などにおいては消毒薬が有効であることもあるでしょう。
また、同じ消毒成分を含む傷薬に関しては、消毒薬とはまた考え方が異なることもあり、傷口への使用が現在でも推奨されていることの方が多いです。
ただ、5〜6日間塗り薬を使用し続けていても、効果がなかったり、悪化してくる場合、またそもそも深い傷の場合は家庭の判断で塗り薬を使用し続けるのではなく、医療機関を受診して医師の判断を仰ぐようにしてください。
このコラムが傷に対する処置でお困りのあなたにとって、お役に立てれば幸いです。

 

〈参考資料〉
1)創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン(皮膚科学会)
2)創傷は原則消毒しない 塚田邦夫(高岡駅南クリニック)